注意と運動学習(運動学習理論➀)

スポーツ科学

 運動学習(Motor Skill Learning)とは、動作や運動を獲得し、改善するための学習プロセスを指します。陸上競技や球技、水泳などのスポーツにおいて、よりよい動作を習得するためには、理想とする運動動作を意識して学習していかなければなりません。運動学習理論シリーズでは、大阪経済大学の九鬼先生から学んだことを参考にまとめていきます。

 運動学習を進める上で、何を意識しながら行うかは重要な視点です。これまでに行われてきた研究では、運動の際の意識の向け方には、大きく分けて2つの方法があると考えられています。(wulf.2007)

 1つは、身体内部・身体運動に意識を向ける、インターナルフォーカス

 もう1つが、身体外部の環境、運動の効果に意識を向ける、エクスターナルフォーカスです。

 インターナルフォーカスの場合は、例えば、「脚を高く上げる」や「肘を伸ばす」、「つま先を上げる」といったように、自分の身体に意識を向けるようにします。エクスターナルフォーカスは、例えば、「空き缶をつぶすように」や「目の前の壁を壊すように」、「できるだけ遠くに着くように」など、自分の身体の外側や運動の結果に意識を向けます。

 この2つの注意の向けた方は、見た目は同じ動作でも、運動の正確性や力発揮に違いがあることが研究でわかっています。

 バスケットボールのフリースローにおいて、手首の動きに意識を向けるインターナルフォーカスと、ゴールリングに意識を向けるエクスターナルフォーカスを比べると、エクスターナルフォーカスの方が、正確性が向上します。また、垂直跳びにおいては、意識を指先に向けるインターナルフォーカスと、到達点に意識を向けるエクスターナルフォーカスでは、同様にエクスターナルフォーカスで跳躍高が増加します。また、エクスターナルフォーカスでは、腕や下肢の筋群の筋活動が低下します。つまり、特定の筋を過剰に緊張させることなく、運動動作を行うことができていることが予測できます。

 テニスの指導現場において、ある著名なコーチが絶えず言っていたことが、「フォーム(インターナルフォーカス)ではなく、ボールをどこにどのくらいの強さで打ちたいか(エクスターナルフォーカス)という思いで打つ。」です。よくありがちな指導しては、ラケットをどのようにふるや足や腕の動かし方をどうするかといったことがあります。しかし、どのように動かすかや目に見えるフォームは、あくまで運動の結果に過ぎず、フォームがボールを打たせているわけではないといいます。

 このように、運動の効果や結果に意識を向けることは、運動学習を進める上で有効だとわかります。しかも、運動の熟練者だけでなく、初心者にも効果的であることもわかっています。もちろん、個々の運動レベルにおいて、イメージできることできないことがあるので、コーチングやアドバイスをする際には工夫が必要です。しかし、目に見えるフォームや手足の動きに直接アドバイス、例えば、「もっと膝を高くや姿勢をまっすぐに」等はインターナルフォーカスになりがちなので、注意しましょう。

 最後に、スプリントにおいて、オススメのエクスターナルフォーカスを紹介します。それは、「なるべく、疲れないように走る」です。疲れないという運動の結果に意識を向けることで、全身の筋が協同して使われ、理想とする走りに近づくというものです。練習の中で自分のオリジナルのエクスターナルフォーカスを探してみてください。

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