ディファレンシャルラーニング(運動学習理論③)

スポーツ科学

 ディファレンシャルラーニングとは、運動スキルに習得に効果的な練習法の1つになります。ディファレンシャルラーニングは、多様性練習とも呼ばれ、様々な種類の運動を繰り返す練習法になります。

 運動を繰り返し行うということは、これまでの古典的な反復練習と同様です。異なる点は、運動のコアとなる部分は残しつつも、他の部分に変化を加えるということです。

 キャッチボールの技能を高めたい場合、30mほどの距離を取り、繰り返しキャッチボールを行います。これは一般的な反復練習になりますが、ディファレンシャルラーニングの場合は、ボールを投げるという運動は変えずに、投げる条件を変化させます。

 例えば、右手ではなく左手で投げてみる。ワンバウンドで投げる。ツーバウンドで投げる。ジャンプして空中でキャッチする。足の下から投げる。振り向きざまに投げる。背中でキャッチする。走りながら投げる、キャッチする。などです。

 なぜ、このような練習が、一般的な反復練習よりも運動学習効果が高いかというと、運動とは常に異なる動きをしているからなのです。

 一般的なキャッチボールを繰り返し行う場合、同じ運動をしているように見えますが、実は毎回毎回微妙に異なる動きをしています。腕の角度や、足の位置、頭の位置、体幹の動き、ボールの握り方、指のかかり方などが、全て全く同じ条件で運動することはありません。地面の硬さや風向き、その時の精神状態なども加味すれば、無限に運動パターンが存在すると言えます。

 ただ、全く同じ運動ではなくても、人はおおよその予測で運動を完遂することができます。例えば、50mの距離を投げる運動と、30mの距離を投げる運動を繰り返し行い学習した人がいたとします。その人は、これまで1度も40mの距離を投げたことがないとしても、おおよその力加減で40mの距離に投げることができるでしょう。30mと40mと50mを投げる運動は、同じキャッチボールでも、異なる運動(力の入れ具合や投げる角度など)ですが、30mと50mを投げた経験が生きて、40mも投げることができたのです。

 これを運動スキーマといい、運動の経験が多く蓄積されていれば、似たような運動も遂行できることを示しています。いわゆる運動神経のよい人というのは、この運動スキーマが多様で、色々な運動に対応できる状態といえます。逆に運動経験が少なく、運動スキーマの形成が乏しい人は、新しい運動の習得に時間がかかってしまうのです。

 ディファレンシャルラーニングは、有効な練習といえる理由は、多様な運動の繰り返しが、運動スキーマを蓄積させ、運動学習を早めるからです。多少のノイズを運動に加えることが重要になります。ポイントとしては、1つ1つの運動に、具体的な説明や細かい動作修正を行わないということ、フィードバックもする場合は、端的にすることです。

 ディファレンシャルラーニングを陸上競技に活かす場合、トラックを走る練習だけでなく、芝や砂浜、坂を走る。スレッドを引いてみる。ミニハードの間を走る。などがよく行われる練習です。変形ダッシュという、様々な姿勢から走り出す練習。様々な距離を様々なペースで走るなども、ディファレンシャルラーニングといえるかもしれません。色々な工夫を取り入れ、練習に活かしていきましょう。

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