要素還元主義と構造主義(運動学習理論⑨)

スポーツ科学

 スポーツパフォーマンスを高める上で大きく分けて2つの考え方があります。

 1つ目は、要素還元主義です。要素還元主義は、スポーツパフォーマンスを構成する要素を取り出し、部分を高めていくことで、全体のパフォーマンスを向上を目指す考え方です。

 例えば、バスケットボールなら、シュート練習、ドリブル練習、パス練習などの部分の練習に主眼を置く方法です。ハードル走で言うと、ハードリングを分解して、強調したい部分を取り出した練習法である、ハードルドリルは要素還元的なトレーニングと言えるかもしれません。

 2つ目は、構造主義です。構造主義は、部分の総和は全体ではないため、要素を取り出して考えるのではなく、あくまでも全体のバランスからパフォーマンスを向上させていく考え方です。

 例えば、スプリントなら、腕振りを極端に横で振ってしまう選手がいたとします。要素還元主義なら、腕ふりという部分を修正しようと、まっすぐ腕を振る練習をします。ただ、構造主義なら、腕振りだけ変えるとなると、他の部分にも少なからず影響を及ぼす可能性を考えます。全体のバランスをから、腕を横に振らざるを得ない状況であり、仮にまっすぐ振れるようになっても、パフォーマンスは向上しないと判断します。

 構造主義的な考えのコーチングする場合は、1つの例ではありますが、上半身の筋力トレーニングを取り入れます。横に振ってしまうのは、筋力不足であると考えたためです。その上で、走る練習を反復することで、全体の調和をとりながら、腕振りの課題をクリアしていくことを目指します。

 ここからは、要素還元主義と構造主義に対する私見になります。

 結論としては、どちらも必要であるが、メインは構造主義的な考え方がパフォーマンス向上に繋がることが多い。です。

 競技種目によっても違いはあるかと思いますが、とくに初心者は、構造主義的なアプロ―チが有効です。球技なら、まずゲームをしてみようということです。テニスで言うなら、いきなり公式ルールは難しいですが、小さいコートで、弾みにくいボールを使って、ラリーをしてみましょう。還元主義的には、ラケットの握り方を教え、フォームを教えとなるかもしれませんが、とりあえずフォームや打ち方は置いておきます。

 ハードルなら、とりあえず、跳んでみる。正規よりもハードルを低くしたり、インターバルを狭くしてもよいです。ハードル走をしているなあという感覚を学んでいきます。こちらもフォームは1度置いておいて、ハードリングの全体像を把握することからスタートします。

 以上のような方法が、上達への近道ですし、何より、その種目の持つ楽しさを実感できます。たまに陸上競技場に行くと、陸上クラブが指導を行っている場面を見ることがあります。小学生くらいの子に正しい走り方を説明し、ドリルをひたすらやっているのですが、楽しいのでしょうか。走ることの楽しさを教えるためにどう工夫ができるのかを考える必要がある気がします。

 少し話がそれましたが、要素還元主義が必要な場面も当然あります。

 種目で言うと、野球やサッカーなどの、参加人数が多く、求められる運動技能の種類も多く、細かい戦術も必要とされるものです。

 もちろん、レクリエーションや体育の授業で取り扱う分には、要素に分け、細かい練習は必要ないかもしれませんが、競技スポーツならそうはいきません。課題となる要素を抜き出し、部分部分を鍛えて、全体のパフォーマンスを向上させることになります。

 また、陸上競技のようなごくシンプルな種目でも、突き詰めていくと、要素で見ていくレベルになってきます。0.01秒を伸ばすため、より細かい部分に目を向けなくてはならないからです。その場合は、専門性の高いコーチや知識が必須になるかと思います。

 練習方法を考える上、要素還元主義と構造主義の両方の観点があることは重要です。必要な状況に応じて、使い分けるコーチングが求められています。

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