力むというと、スポーツにおいては、ネガティブなイメージがあります。
「レース後半力んで失速してしまった。」「力みすぎだからもう少しリラックスした方がいいよ。」など、よく現場で聞かれます。
確かに、余計な力が入り過ぎてしまえば、スムースな動作をすることができなくなり、パフォーマンスを低下させることになるでしょう。力を入れてはいけない局面で何らかの要因で力が入ることは、できるだけ避けていくべきです。
しかし、実際に指導をしていると、「力まないように」というアドバイスは、必ずしも正解でない場合も多いという実感があります。
つまり、力み過ぎは良くないが、力まなさすぎも良くないということです。
力まなさすぎの状態とは、中々一般化するのは難しいのですが、表現すると、「動きがのっぺりしていてメリハリがない。」「力を入れるべき局面で、自分の持っている力を出していない。」ように見える状態です。
これは、初心者やパフォーマンスが高くない選手の練習を見ていると感じることです。
スプリント練習をしても、力を出し切れないため、スピードが出ません。パフォーマンスが高い選手が練習後疲労困憊になっていても、あまり疲れた様子ではないのです。
持久力が優れているというより、無意識に力をセーブしてしまっているので、狙った練習効果が得られない状態です。
火事場の馬鹿力ということわざがあるように、人は、平常時には、本来持っている力の半分程度しか出していないと言われています。100%出してしまったら、筋や関節を痛めてしまうリスクがあるからです。
しかし、陸上競技のような、0.01秒や1cmを競争するスポーツにおいては、100%は無理でも、それに近い出力を出せる選手が記録を伸ばしていきます。
たまに、身体は細く見えるのに、高いパフォーマンスを発揮する選手がいます。恐らくこのような選手は、自分の持っている力を最大限発揮する能力に長けているのではと考えています。(しかし、身体が出来ていないため、負荷に耐えきれず、怪我も多いイメージがあります。)
以上のようなことを踏まえ、初心者やパフォーマンスを発揮しきれていない選手は、意図的に力む練習を取り入れることをオススメします。
具体的な方法としては、スタートダッシュや、1日のメインとなるスプリント練習の前に、力むトレーニングを行います。
ここで言う力むトレーニングとは、バリスティックエクササイズやプライオメトリクス、メディシンボールなど、瞬間的に大きな力を発揮するトレーニングです。
走りに特異的なトレーニングなら、スレッド走やレジステッド走を短い距離で行えば、力む感覚が得られます。
自分の持っている力を十分に発揮できる状態をつくった上で、スプリント練習をすることで、質の高い練習ができている実感があります。
ジャマイカの選手も、似たような流れで1日の練習メニューを組み立てており、試す価値ありだと考えています。
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